特殊清掃業歴15年の社長が見た連帯保証人と大家の紛争の行方
2023/07/04
孤独死にまつわる特殊清掃や原状回復では物件オーナーと賃借人(ご遺族や保証人)と原状回復の範囲と費用負担についてのトラブルがしばしば勃発します、国交省ガイドラインでも一定の基準は定められていますがまだまだ双方の認識不足から範囲と費用負担を巡ってのトラブルが絶えません。
このコラムは連帯保証人とマンションオーナーとの間の原状回復の費用負担について発生した紛争の一部始終をお伝えします。
・特殊清掃や家財の整理を行うべき人。
・相続人と連帯保証人の立場の違い。
・原状回復の範囲と費用負担
特に相続人の権利や部屋の連帯保証人に課せられる義務は必見の内容となっています。
☆本記事の執筆は株式会社まごのて代表取締役佐々木久史(宅地建物取引士)
☆本記事の監修は栃木柳沢樋口法律事務所、弁護士栃木義宏
ゴミ部屋で孤独死の原状回復までの記録
2021年3月東京都台東区のマンションで起きた孤独死案件での特殊清掃から原状回復までの記録です。
賃貸オーナーからの依頼で死後2ヶ月(浴室)+ゴミ部屋というものでした。
<物件概要>
RC5階建て築29年近隣商業地域に建つ1K~2DKの賃貸マンション(オーナー自主管理)
<事故概要>
このマンションに住む50代男性が浴室で死亡し死後2ヶ月で発見されたもの。
居住年数9年、連帯保証人あり、賃貸仲介は地場系不動産会社。
<特殊清掃までの経緯>
物件オーナーより賃借人の孤独死が発生、すでに警察の立入許可も出ており入室は可能だがゴミが多くユニットバスまでたどり着けないと相談。
この時点で相当なゴミ部屋であることを確信し翌日に現地を拝見することにしました。
相続放棄を主張する連帯保証人
約束の時間に現地に伺うとすでに物件オーナーはマンション前で待機。
連帯保証人が来るまでに部屋を拝見しましたが、玄関を開けるとすぐにゴミの山があったが我々にしてみれば困難なものでなく進入不可というレベルではなかったためそのままユニットバスまで行きました。
ユニットバス内には数百のハエが飛び回っており壁面にはウジ跡、浴槽内はすでに水は枯渇しており底に人体の一部と思われる物が沈んでいました。
居室は平均高さ1m強でコンビニ系ごみが堆積し部屋の広さから鑑みておそらく6~7年ゴミを溜めたと推定。
しばらくして連帯保証人である故人のお姉さんが現地に到着し開口一番オーナーに対しこう言い放ったのです。
「相続放棄をする予定なので私はもう関係ありません」
その言葉を聞きオーナーは怒り狂い「そんなことより先にひとこと言うことがあるだろ!」とまくしたていきなりから不穏な空気となりました。
私はこの場面で僭越ながら口をはさみました。
「相続放棄は関係ありませんよ」
確かにこのお姉さんは法定相続人でもありますのでおっしゃるようにプラスの財産マイナスの財産すべてを放棄することができこの部屋の件に関してもその対象となります。
ですがこのお姉さんの立場は『連帯保証人』です、入居中はもちろん退去明け渡しまで一切の債務を負う連帯保証人なのです。
直近の契約更新でも連帯保証承諾書に署名捺印しており、連帯保証人としての債務を負うことは確定的なものとなりました。(極度額336万円の連帯保証契約)
※2020年民法改正により賃貸契約の連帯保証も極度額を定めなければいけなくなりました。
☆孤独死が起きた際に後始末をやるべき人
賃貸の連帯保証人はどこまで責任があるのか?
連帯保証人と法定相続人の違いは上記でも書いてますが簡単に言うと権利と義務の放棄ができるのが相続人、全責任を負うのが連帯保証人です。
借金の連帯保証人の時と同じ考え方で借りた本人が亡くなろうが失踪しようが自己破産しようがまったく関係なく支払い義務があるのが連帯保証人で、免れる方法は自己破産しかありません。
ですから部屋の退去にかかる全責任は本人と同一の責任を負う連帯保証人は100%の債務を負うのです、名前を貸しただけやそこまでの責任とは知らなかったは一切通用しないのが連帯保証人のこわいところです。
原状回復にかかる費用費用負担割合の決着
部屋を退去(明け渡し)に際してお姉さんに連帯保証人としての責任があることを納得してもらった上で、退去に必要な作業と見積額の提示に移りました。
まず特殊清掃の部分とゴミ部屋片付けそれぞれ分けて算出しました。
玄関から廊下部分のゴミ撤去と浴室の特殊清掃、それに付随する消臭作業と排水管高圧洗浄までをいわゆる特殊清掃費用とし居室内のゴミ撤去とハウスクリーニングを明け渡しのための片付け費用と算出しました。
特殊清掃費用:315,000円
ゴミ撤去費用:450,000円
この費用については了承し全額連帯保証人が支払うことに合意となりました。
退去にまつわる目の前のことはこれで問題ありませんがその先のことが控えています、オーナーは原状回復の費用はどうなるか?と聞いてきたのです。
一瞬連帯保証人の顔がこわばりましたがまだ何も着手していないのでどの程度の工事が必要になるか不明だったためまずは上記の作業をやってみて損傷具合を確認してからになりますが、すべてを賃借人(連帯保証人)負担には法的にできないとマンションオーナーにも伝えた上で上記作業に着手したのです。
ゴミ部屋の破壊力!部屋の傷みに驚愕
特殊清掃を終え部屋のゴミも撤去し一応の清掃や消臭も終わった段階で部屋を見渡すと想像以上に傷んでることが判明しました。
まずユニットバスは死後日数長かったこともあり底部に沈着がありクリーニングで復元できるものではなかった。
居室に関してはゴミから出た汚水や長らく換気をしていなかったために起きた結露や湿気で床や壁材がかなり傷んでおりかなり大規模なリフォームを行わないと次の入居者を募ることができない状態でした。
やはりゴミ部屋は部屋を傷めますし壁にしても壁紙を貼りかえる程度で済まないのは誰が見ても明らかな惨状です。
私たちはゴミ部屋片付けを相当数こなしていますが程度の差こそあれ片付け後に『無傷』であったものはほぼ皆無で特に床や壁はこの部屋同様にハウスクリーニングでは到底取り切れない沈着や破損汚損が見受けられました。
結果的にユニットバスは交換、壁紙と床材も交換、その他細かな不具合箇所修繕等で150万円の工事と試算したのです。
☆孤独死発生から原状回復までの手順
通常損耗と善管注意義務違反
このように孤独死とゴミ部屋のダブルパンチはレアケースではなく意外にも多いのですが、原状回復の費用負担については紛争になることが多いです。
上記の例も連帯保証人であるお姉さんはこの原状回復についてはかなりの抵抗を見せました。
お姉さんの主張はすでに特殊清掃を行いゴミも撤去して明け渡しが完了したのでこれ以上の責任はないはずだ!
オーナーの主張はゴミ部屋にされた上に孤独死じゃたまったものじゃない!すべての費用を払え。
このようにほとんどの場合真っ向から対立することになります。
どちらの主張も理解できなくもありませんが私は中立かつ法的な見地で下記のような意見を述べました。
1.孤独死が起きたことに故意過失はなくすでに連帯保証人は特殊清掃を行っており責務を果たしたと言える。
しかし死後経過相当日数が経過しご遺体は腐乱していた、それによる汚れの沈着であるため交換が妥当であるが交換費用から減価償却分を引いた物が連帯保証人の負担。
2.ゴミ部屋であったことから生じた破損の修復については賃借人負担で行うべきである。
なぜなら賃借人には等しく課せられる『善管注意義務』があるのでゴミ部屋にしてしまったことは一方的に賃借人の故意過失である。ただしユニットバス同様減価償却分を引いたもの、壁紙に至っては居住期間が8年であったことから普通に退去したとしても耐用年数が経過してるためオーナー負担。
このような意見書を弊社顧問弁護士から交付していただきました(栃木柳沢樋口法律事務所 弁護士栃木義宏先生)
具体的な費用負担としては下記のような計算式です。
リフォーム総額-ユニットバス減価償却分-床材減価償却分-壁紙分全額=連帯保証人支払額
この建物はRC造であったので47年-29年=18年分の費用負担(仮に47万円の物であれば29万円分は償却済みだから18万円だけ負担すれば良い)
結果的に150万円程度の原状回復費用をオーナー6割連帯保証人4割の費用負担で原状回復工事を行いました。
今回の場合はRC造のマンションだったため建物そのものに残存価値があったのでこのような計算で行いましたが、法定耐用年数が22年の木造アパートなるとすべての費用が免責されるのかと言えばそうでもなく実際は今後先どれぐらいの期間賃貸物件として機能するかをモノサシとする場合もありケースバイケースです。
孤独死対応型の保険に加入しておきましょう
この事例は連帯保証人に資力があったため比較的スムーズに完了しましたが、現実は連帯保証人が居ても資力がない、そもそも連帯保証人がいないなど結果的に物件オーナー費用を負担しなければならないケースがほとんどです。
ですから賃貸運営には孤独死に対応する保険に加入しておくこが必須です。
借家人側でもこのような場合に保障される特約の付いた保険もありますが保険請求者が遺族や相続人、連帯保証人に請求権があるためスムーズに事が運ばない場合もあります(物件所有者が保険請求できる場合もあるらしいですが詳細不明)
やはりすべてを借家人側の保険や後述する家賃保証会社に頼るのではなく、物件オーナー側で保険に入っておくのがベストな選択です。
従来の火災保険の特約に付加する場合や孤独死など不測の事態のためだけに掛けておく少額短期保険などがありますので目的にあった保険を選びましょう。大手損保の特約では空室期間の家賃保証までカバーされるものもあります。
家賃保証会社はカバーしきれない部分が多い
保険とは若干ニュアンスが違いますが家賃保証会社でも孤独死に対応する保証があるようですが、私が調べたところ現時点(2023年6月)では特殊清掃や原状回復までカバーする保証会社は見当たりませんでした。
家賃保証会社は一応の立ち位置としては連帯保証人ですが、主な目的は賃借人が家賃を滞納した際の家賃保証と残置物を残して失踪した時の家財撤去までが保証されるないようです、ですから保証会社は住人の死亡があった場合すぐさま荷物を片付け引渡し、すなわち契約終了としてしまうのです。
もしもの時にカバーされない部分があるから保証会社プラス人的保証も取るというのが昨今の賃貸住宅契約時の主流となっています。
紛争を未然に防ぐアドバイスを行います
孤独死が発覚した瞬間から原状回復に向けての工程が始まっていくのですが同時に費用負担トラブルのゴングが鳴る瞬間でもあるのです。
発生当時はご遺族や大家さんなどの関係者もパニック状態にあり、何をどう進めるかわからない、これからどうなるのかそれぞれの立場で不安を抱えていますが、時間が経つにつれ様々なことが見えてきます、そして相当な費用がかかることも見えてき、その費用はいつ誰が払うのだとなり費用負担のトラブルに発展します。
当事者みなさんがお金に余裕があるとは限りません、ご遺族にとっては降って沸いたような出来事ですし、物件オーナーにしても昨今は利回りギリギリで物件運営をしてることも多く、それぞれの立場で極力出費は減らしたと考えています。
ですから費用負担で揉めるのですが、こんな場合は法的見解に則って進めるのがベストです、まごのてでは顧問弁護士より物件ごと事案ごとに意見書を発行するサービス提供を行っていますので安心してお任せください。
確実な孤独死部屋の原状回復ならまごのて
特殊清掃や原状回復にお金を掛けたくないからと、正しい手順で原状回復を行わなかったり特殊清掃そのものを省いたりする例がありますが、これは絶対におやめください。
☆特殊清掃費用をケチったために原状回復失敗
また「安い」とホームページに書いてる特殊清掃や遺品整理を行う業者もご注意ください。特殊清掃の専門業者や確実な技術を持つ特殊清掃業者は絶対に「安い」やその周辺の言葉を使いません。
費用をできるだけ削りたい気持ちはわかりますが、不備があれば更に余分にお金がかかることになりますので、特殊清掃業者を選ぶ際は十分ご注意ください。
東京近辺の孤独死であれば深く悩む必要はありません、今ご覧のこのホームページのまごのてにご相談いただければ万事解決です。